地球に寄りそうサスティナブル住宅

スクラップ&ビルドをくり返す現代住宅はもう卒業。バレナは次世代に引き継ぐ本物の家造りを提案します。

タイニーハウスで暮らすという選択

東京で過ごしていた28年前、中央線沿線の住宅地に建つカメラマンの実家を訪ねたことがあります。彼はブラジル人女性と結婚して、アマゾンの僻地に暮らしていました。

 

仕事を依頼するときは、数キロ離れた家の住人に電話して呼び出してもらっていました。連絡がつくまでに一週間かかることもざらでした。

 

「電話がないところで仕事するのは大変じゃないですか?」。そんな質問をすると、「どうしても仕事の依頼をしたいとなれば、コンタクトをとろうとする人が一生懸命になるからどうにかしてくるもんだよ」。

 

バブル時代、仕事にあくせくしていた私には、その言葉が新鮮でした。ゆるい時間の流れのなかでのんびり過ごす生活。スマホを片時も離さない現代人なら、一日でも連絡が取れなければ不安を感じてしまいますし、すぐに連絡しないと脅迫観念に襲われます。

 

閑静な住宅街にあったカメラマンの仕事場は、物置を改造した一坪ほどの空間でした。写真を現像する暗室も兼ね、現像液のアンモニアのにおいがぷーんと鼻につきます。ピンで止められた紙焼きの作品。そこには彼の世界があり、こんな小さな空間で仕事ができる彼を羨ましく思いました。

 

欧米ではタイニーハウス、小屋のような小さな家が注目されています。タイニー(tiny)とは、ちっぽけな、ちっちゃなという意味。室内には、キッチン、トイレ、シャワーなど生活に最小限必要な設備を備えています。

 

アメリカでは、床面積200㎡を越える平屋から、その1/10のタイニーハウスに住みかえ、大自然の中で家族との生活を大切にする。そんなスタイルを実践する人たちが増えてきているそうです。

 

弊社では白馬村の別荘地に、小屋を改装したタイニーハウスを建築中です。施主は東京在住でリタイアしたご夫婦。外観は古びていて住めそうになかったですが、内部は意外にも小奇麗で、奥様はその小屋をとても気に入りました。

 

改装は「フレンチカントーリーのキッチンに」、「洗面の水栓は真鍮のレトロなひねるタイプ」、「シャビーな雰囲気を出したい」…など、奥様の思いがいっぱいに詰まっています。

 

それにつられて、「シャワーの位置は変えたほうがいいですよ」、「フェイクのドアはここに取付けましょう」など、大工さんもノリノリで仕事を楽しんでいます。

 

小さいからこそ、プライベート空間がより充実する。タイニーハウスは、自由で豊かな人生を送るひとつの選択肢かもしれません。

 

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白馬村の別荘地で改装中のタイニーハウス

 

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↑フレンチカントリー風キッチン。天板は自然石で、吊戸と換気扇をセット購入

 

この秋は建築ラッシュ!?

弊社のスタッフはこれまで3人でしたが、9月から現場管理を担当するMさんが入社しました。彼は元大工さんで、木造在来工法のプレカット工場、建材屋、地場の工務店の現場代理人などを経験し、まだ1ヶ月なのに弊社に欠かせない存在になっています。

 

私が一緒に仕事をしたいなと思う人は「建築が大好きな人」。意外かもしれませんが、この業界何となく入って来てしまう方も結構います。

 

もちろん日々の生活や家族のためにお金も必要ですが、家造りを施主さんや職人さんなどすべての人たちと「楽しみながらカタチにしていけたらいいな」と、思っています。だから、探究心があって仕事に熱中している人を見ると、つい誘ってしまいます。

 

Mさんもそんなひとりです。

 

先日、札幌の設計事務所の依頼で、住宅の柱を固定する柱脚金物を設置することになりました。設計事務所の図面にはその詳細図がありましたが、実際そのようなものはなく、既製品も探してみましたがどうもしっくりしません。

 

そこで設計事務所から提案された図面をもとに、安曇野市堀金にある金属加工場で製作依頼することにしました。以前、金属板の曲げ加工を頼んだことはありましたが、建築部材としてお願いするのははじめて。

 

熟練の職人さんに恐る恐る図面を見せると、ニコニコしながら工場をまわり、「この厚みのステンレス板は熱の温度を上げながら切断して…」、「焼き付け接合すると洗浄するのに時間がかかるんだよ」など丁寧に説明してくれました。

 

プライドを持って仕事をする町工場の職人さんの姿を見て、つくづくモノづくりはいいなと、感じます。

 

これまで少数精鋭、ワンストップで対応しましたが、今年の秋は50坪を超える別荘から、約100坪の集合住宅、160坪の木造ビルなど大型物件ばかりで、私たちのような小さな会社ではてんてこ舞いでした。

 

そこにMさんや新たな協力業者さんが加わり、少しホッとしています。

 

現在進行中の物件は、新築7件、リフォーム2件、リノベーション1件。この先、古民家再生もあり、まだまだ私たちの奮闘は続きます。

 

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↑ステンレス製のオリジナル柱脚金物

 

 

リゾート気分を味わうウッディな集合住宅

家造りをしていると、ときにはチャレンジャーになることがあります。それはコストの面だったり、建物の施工方法だったり……、いつもとは一味違ったものを創ろうとするとき。

 

弊社で建築している住宅なら、この規模のこの仕上げなら、だいたいこのくらいの金額になるということが経験上わかります。

 

でもが「もう少し安くならない?!」とか、「こういう雰囲気にして欲しい」など、予算度外視で無理難題を迫られてくることがあります。

 

そんなとき丁重にお断りすることにしていますが、「もしかしたらこんな素材を使用したらとか、こんな施工方法に変えたら何とかなるのでは」、と思うことがあります。

 

それは難しい課題に直面したとき難問を解くような感覚で大変ですが、解けたときのことをイメージすると、少しだけ快感だったりします。

 

今月着工した大町市にある集合住宅は、そんな建物のひとつです。

 

限られた予算の中で、木をできるだけ見せた「コテージ風のアパートにしたいとい」、というオーナーからの希望に四苦八苦しました。最近のアパートは、お洒落な外観が多いですが、室内は既製の建材を使っているので、確かにあまり代わり映えがしません。

 

ビジネスホテルに泊まっているような雰囲気で、少し冷たい感じ。

 

そこで大工のTさんと図面をみながら、どうしたらコスト押えて試行錯誤しながら考えました。たとえば柱や梁などの構造躯体の一部を表わしに。1階の天井は2階のパインの床材をそのまま見せたり、屋根の破風板に使用する杉材をウッドデッキ材に使ったり…。

 

建て方のときに、野地板を羽目板にして天井仕上げにする、その上に断熱材を入れるなど、ふだんはやらない施工にトライしています。

 

大町駅から徒歩5分、ショッピングセンター「フレスポ大町」の西に建設中ですので、近所にお越しの際は、ぜひ覗いてみてください。

  

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 ↑基礎工事中の集合住宅は今週28日に配筋検査が完了して、9月下旬に上棟予定

 

空気の見える化

 

TV番組で水道水が飲めるのは世界で9カ国しかないことを知りました。日本はその国の一つですが、最近はペットボトルに入ったミネラルウォーターを飲むのが、あたりまえの時代になってきました。

 

私が子供の頃は、水道の蛇口をいっぱいに開けて、水をがぶ飲みしていました。特に真夏などの運動後は、無心にゴクゴク飲むのが爽快でした。最近は水分補給のために体にいいという飲料水が、店頭いっぱいに並んでいます。

 

20代の頃は外国に旅すると、「郷に入っては郷に従え」とばかりに、気にせずにどこの国の水道水も飲んでいました。ヨーロッパに多いい硬水も、パキスタンのレストランで出されたキラキラ光る物体入りの水も、一気に飲み干しました。幸いにもお腹を壊すことはありませんでしたけど……。

 

23年前に安曇野に移住してきた時、水道水を飲んで「美味しい」と感じました。北アルプスの雪解け水を使用したわさび棚で有名な土地ですが、その水は一口飲んで今まででいちばん美味しい水道水と感じました。

 

先日、最新換気システムを学ぶ「空気の質を体験ツアー」に参加しました。愛知県にあるこの施設は、換気扇の製造工場の隣にあり、1種換気(給気と排気が機械換気)、3種換気(外部からの自然給気と機械換気)、無換気の3つの部屋で空気の質を実体験できます。

 

住宅展示場のような建物1階には、面積や間取りを同じ条件にした部屋で、温度、湿度、微粒物質などの測定値が数値でわかるようになっています。

 

無換気→3種→1種の順番に部屋に入り、空気の質を比較していきます。当日は、外気温35度を越える猛暑の中、室内はエアコンが効いている26度。

 

無換気室は空気が澱んでいて湿気がありましたが、エアコンの冷えきったからだには程よくて…。ただ3種、1種と部屋を移動すると、測定値の空気環境が良くなり換気は重要だと納得。

 

最後にリビングで開発中という微風を体験。そこには森林浴で体にいいといわれるフィトンチッド成分が含まれ心地よかったのですが、信州の森の中を歩く爽やかな風はもっと気持がいいと、再確認しました。

 

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↑換気扇の製造工場に隣接するオフィスビル。壁には太陽光発電パネルを設置

 

ディテールにこだわる

「雰囲気がよくて感じのいい建物」、「外観のデザインがちょっとダサいかな」……など、見た目で家を判断することがあります。

 

それはちょっとした違いで決まります。たとえば、間取りを優先して外観の窓位置がバラバラになったり、壁タイルの割付が片側に寄ってしまってバランスが悪くなったり、言わないと気づかないこともありますが、気になり出したらその部分ばかりに目がいってしまいます。

 

造り手としては、建具や窓枠の水平ラインを合わせたり、余分な線を減らすために窓枠をクロス巻込みにするなど、いかに室内空間をシンプルに見せるかを考えます。

 

私は建築特集をした雑誌やユニークな住宅を拝見するTV番組をよく観ます。それは自分が今まで使ったことのなかった素材や、考えたことのなかった空間の造り方など、家造りに活かせる物がないか、常にアンテナを張って探しているからです。

 

どこかで試してみたいと思うものがあったら、写真で画像にしたり、映像を録画したりして残します。それは街歩きをしているときでも同じ。

 

宿場町の通りで美しい窓格子を見つけたら、写真を撮りその格子の幅やピッチを数えます。

 

庭を囲む朽ち果てた木の塀。丸太を切りっぱなしにして並べただけなのに、自然で周囲と馴染んでいる。その施工はどうなっているのか、どうやって止めているのか? 正面、裏面、側面と細かく観察します。

 

裏通りに流れる小さな水路。人工的に石を配しているのに街並みにマッチしている。

 

そんな細かいティテール(詳細)観ていると、つい時間を忘れていまいます。いつかどこかで試してみたい。そのためにディテールを集めた抽斗を造っています。

 

何かいいなと感じるちょっとしたこだわりのディテール。

 

ふとしたところにそんな発見があるから、街歩きはやめられません。

 

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↑高原にあるイングリッシュガーデンの木の塀

 

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郡上八幡の裏道。石積みの水路がユニーク

 

 

 

 

2045シンギュラリティ

今から36年前、ある出版社の編集長が会社を退職して、新しいビジネスをはじめました。それは大企業のシステムエンジニアを引き抜き、パソコン検索して必要な情報を入手するソフトウエア会社で、今でいうベンチャー企業を目指していました。

 

社名にはHAL(ハル)という頭文字。この文字はアルファベッドで、IBMを超える=上をいくという意味が込められています。

 

大学を卒業した私は、その会社でレストランやカフェの情報収集とタウン誌の編集にたずさわりました。まだインターネットが普及していない時代。タウン情報誌などほとんどない時代で、一軒一軒お店をまわりました。

 

そのデータはコンピュータに入力して、東京のターミナルビルの一室で、情報を提供していました。

 

たとえば、カップルが訪ねてきたとき「この近くに夜景が見えるお洒落なレストランがありませんか?」とか、女子高生が「ソフトクリームがおいしいお店を教えてください」などの要望にたいして、コンピュータでキーワード検索すると、希望の店を見つけられるようになっていました。

 

今ではインターネットで検索すれば、簡単に探すことができますが、当時は画期的でした。Windows95が登場する10年以上も前の話しで、ワープロが200万円もして社内ローンで購入したのを覚えています。

 

それから目まぐるしく時代は変り、通信手段は固定電話から、ポケベル、TV電話、携帯電話、スマートフォンと変化し、かつて原稿や図面などを急ぎで送る時は、FAXやバイク便を使っていましたが、今ではメールで簡単にやりとりができるようになりました。

 

現在最も注目されているのは、AI(人工知能)。基本データをハイスピードで取込み、すごい勢いで進化しています。囲碁や将棋界ではトップ棋士が敗北したというニュースは衝撃的でしたが、最近ではそれほど驚かなくなりました。

 

先日IT関係の仕事をしているお客様から、将来はAIに取って代る職業が多くなると聞きかされました。たとえばデータを蓄積して判断する会計事務所や弁護士事務所。これはAIが特意とするところで、人間の仕事として残るのは痴情のもつれなどによる離婚問題くらいだそうです。

 

車の自動運転は2020年を目指し、セキュリティシステムでは街中の不審者を見つけ犯罪を未然に防ぐ研究も進んでいます。

 

建築業界でも外壁工事は、ロボットによって行われるようになる日はそう遠くないといわれます。私たち人間がAIにできない仕事はどこにあるか不安になります。

 

30年前、今日のような時代になるとは想像がつきませんでした。でもこれからは、5年先、10年先が想像できません。AIの知性が全人類の知性を超える時点=シンギュラリティは、2045年といわれています。

 

今年還暦をむかえる私にとって、この世界を見れるのか? 見みてみたいような、見たくないような……、そんな気持です。

 

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↑最近、アメリカ、オーストラリア、中国などのお客様のために、コミュニケーションツールとして購入した音声翻訳機「イリー」。旅行用の簡単な会話程度ですが、AIの発達で翻訳能力が格段にあがってきているとか

 

壊す家、残す家

7年前、松本市里山辺にある民家を二棟改修工事しました。その建物は隣どうしで、一棟は築40数年、もう一棟は築120年を越える古民家でした。

 

建築の仕事をはじめた頃、改築工事の打合をすると、「建物一部屋だけ残してもらえませんか?」という依頼がありました。当時、私は「せっかく建替えるのだから中途半端に残すより新しくしたほうが、きれいで使い勝手もいいのに」と思っていました。

 

それが里山辺の改修工事で、考え方が変りました。

 

築40年の建物は、大屋根の和風住宅。キッチン、風呂などの水廻りは古く、断熱材はほとんど入っていない状態。しかも基礎コンクリートは無筋、筋かいもなく今の建築基準法の耐震性能を満たしていません。

 

工事は骨組みだけを残して、基礎補強、筋かい施工、床、壁、天井に断熱材を充填しました。

 

建築中は離れに住んでいた、施主様と密に打合せができました。建物を取り壊していると、「この廃材はオヤジが勤めていた工場から、リヤカーに積んで一緒に運んできたものだ」と、ふっと思い出して懐かしい表情になりました。

 

育った家には思い出がいっぱい詰まっている。前の家にその痕跡を少しでも残せたらという気持があります。

 

築120年の古民家では、建物を見て直ぐ「これは残さなければいけない」と感じました。真夏でも涼しい土間、年期のはいった太い柱や梁…。懐かしさと安心感。

 

古民家は戦後の住宅とは異なり、建物の骨格となる構造躯体がごつくて頑丈です。戦中時、近くに焼夷弾が落ちて建物は揺れましたが、ほとんど影響はなかったそうです。そういえば、改修工事中に中部地震が発生した時も、その場にいた大工さんは大きな地震があったと気がつきませんでした。

 

古民家には住んでいた人たちの思いが沁み込み、長い歴史があります。

 

先日、合掌造りで知られる世界遺産、「越中五箇山・相倉合掌造り集落」を訪ねてきました。車で東海北陸自動車道五箇山ICから約20分。山深い道を走ると、こんなところに集落があるのか不安になります。途中、急勾配の坂道を上ると緑の中に家屋が点在する相倉集落が見えてきます。

 

この集落は閉鎖的な環境のなかで特殊な生活様式が生まれたそうです。合掌造の建物は屋根勾配60度、正三角形の切妻。釘や鎹を使わず、丸太を荒縄やネソという植物で結わえた特殊な建築工法です。

 

里山の自然に調和していて美しい。日本文化として後世に残していかなければならない。

 

この集落には23棟の集落が現存していますが、そこでは田畑を耕し、食事処や民宿などで生活を営んでいる。そんなところに魅力を感じます。

 

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世界遺産・相倉合掌造り集落

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↑屋根は60度の急勾配。外部建具の窓は障子貼り

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↑小屋組は丸太を荒縄で結わえた特殊工法