大好きな彼と末永くお幸せに
「じゃぁ、勝手にすれば」。「勝手にする」。
ニューヨーク・セントラルパーク前で、私の腕の中からガイドブックを奪い取った娘は、すたすたと反対方向に歩き出した。
こちらはそのまま真っ直ぐ進む。100mほど歩いたとき、クールダウンして振り返えってみると、彼女の姿は人ごみの中に隠れていた。些細な言い合いの口喧嘩、売り言葉に買い言葉。
私たちが目指していたのはニューヨークグッゲンハイム美術館で、そのすぐ近くだった。
20世紀巨匠のひとりフランクロイド・ライトよるこの建築は、別名「カタツムリの殻」と呼ばれ、中央部が大きな吹抜の大空間。その回りは螺旋状のスロープで、見学者は最上階までエレベーターで上り、そこからスロープを下りながら、壁に展示している作品を鑑賞する。
学生時代、いつか行ってみたい美術館のひとつだった。収蔵品は有名な画家ばかりだが、傾いている床で作品を見ているとジックリ眺めていられない。「この美術館は、展示物より建物そのものが作品なのだ」と気がつく。
ニューヨーク旅行へ出かけたのは、今から7年前で、娘が大学一年生の時だ。地下鉄を使わず、一日中ヘトヘトになるまでマンハッタンを歩き回った。ふたりとも方向音痴で、英語も通じない。イラつきながらの珍道中でした。
ホテルに戻ると、娘はベッドでふて寝。あの後、タクシーに乗りガイドブックに書き込んだ宿泊ホテルを連呼したそうだ。レストランの階段をさがすのに、まわりの人たちに「アガール」と叫んでいた娘だ。夕暮れ時、近所のステーキハウスに出かけた。
ニューヨークは、ペプシコーラから超高層ビルまで、何もかもがビッグサイズ。もちろんステーキも巨大。その歯ごたえは途方もなくかたい。ふたりでもぐもぐ噛み切れないまま飲み込む。「This is America」。
月日が流れ今月、娘が結婚式を挙げることになりました。
「お父さんバージンロードを歩くのでリハーサルをします」と、娘の夫に言われましたが、お父さんなんていう上等なものにはなれずに、今でもあの時の旅気分でいます。
↑ライト死後半年後の1959年に完成したグッゲンハイム美術館
↑吹抜けからの内部空間