未来に息づく、まちづくりを
おとぎ話『三匹のこぶた』のオオカミは、わらの家と木の家を吹き飛ばしましたが、レンガの家はビクともしませんでした。子供心に「レンガの家なら丈夫で安心」と、ずっとそう思っていました。
8月23日に発生したイタリア中部地震では、その常識を覆されました。アマトリーチェでは石造りの建物が崩壊し、町が跡形もなくなるほどの被害をうけました。耐震対策がされていなかったことが原因だそうです。
それに対して震源地から南東10㎞にあるノルチャでは、死者がゼロ。ウンブリア州にある人口約5千のこの小さな町は、ここ数十年間で大地震に見舞われ甚大な被害を受けるなか、耐震化をすすめてきたといいます。
1997年にウンブリア州アッシジを襲った大地震では、サンフランチェスコ教会の天井が崩落。砂煙が上がるTV映像を思い出す方もいると思います。何度か訪れていた私にとっても、ショッキングな出来事でした。今回はその時の教訓が生かされ、被害がなかったそうです。
ノルチャには30年前、MOTO RADUNO(モト・ラドゥーノ)というオートバイ愛好家の集会に参加するために訪ねたことがあります。ヨーロッパ各地からやってくるライダーは、ほんとうにバイク好きで、走るのが大好きな人たちばかりでした。
オーストリア人グループのバイクの後ろに乗せてもらい、アウト・ストラーダ(高速道路)を走り、山の尾根を抜け、道の険しいワインディングロード。しばらくすると、ノルチャの美しい街並みが現われます。
さらに28km先には、カステッルッチョ・ディ・ノルチャの村。バイクで村へ近づくと、いきなり目の前に360°のパノラが視界に広がる。遮るものがない大平原。羊が群れをなし、その後を羊飼いが追う。なだらかな頂からはハングラーダーが宙を舞いながらすべり降りてくる。そして小さな丘に浮ぶ中世の町並み。
これまで体験したことがないような幻想的な世界だ。
イタリアでの楽しみのひとつは、そんな美しい自然と古い建物が調和した町並みを訪ねること。耐震を考えれば建物を一掃して近代建築にすることもできるけれど、それでは町の魅力は半減してしまう。耐震補強を施して未来に引き継ぐ町並みを残せていけたらと、心願っています。
↑モト・ラドゥーノ1986
↑カステッルッチョ・ディ・ノルチャ