350万円の値引きとローコスト住宅のナカミ
25年間ほど前から住宅の見積りに携わっています。多いときには年間200件以上を作成していたこともありました。見積作成はまず実行予算書(予定原価)を出し、そこに利益をのせます。利益率は建設会社によって異なります。ハウスメーカーでは、一般に30~40%くらいと言われています。
例えば実行予算金額が1560万円とすると、35%の利益を上げるには見積金額が2400万円、840万円の利益になります。弊社で契約していただいたお客様で、某ハウスメーカーと競合したことがあります。その時の見積金額は、弊社よりも500万円くらい高い金額でした。
しかしその月は売上が少なくどうしても契約が欲しかったようで、いきなり350万円値引きしてきました。それにはお客様も驚き、「最初の見積金額は何だったのか?」と、疑問を持たれたようです。
大きな会社には、安心感があります。テレビCMや新聞・雑誌などで、住まい手のライフスタイルや未来を語り、共感を誘います。展示場や立派なパンフレットがあり、建物の内容がよくわかります。イメージアップのためにスポーツ競技のスポンサーになったりしています。
これだけのことをするのですから、坪単価も当然高くなり利益も多く必要です。350万円値引いてもまだ余裕あるということです。
一方、ローコスト住宅といわれる建物は、利益を取るのがかなり厳しいのが現状です。物価高で建設コストが上がり、35坪前後の建物で、本体工事、給排水設備や暖房工事、照明器具などの付帯工事、建築確認申請に関わる設計料など全部含めて、1500万円くらいが相場です。
経営的にいえば、最低でも300万円の利益は欲しいところ。逆算すると、すべてを1200万円で造らなければなりません。それでも20%の利益率。ローコスト住宅をやる工務店は、必然的に契約件数を増やして、数で勝負することになります。350万円の値引きはあり得ないのです。
見た目は物件が多く景気が良さそうに見えますが、実際には経営が芳しくないという工務店も結構あります。できるだけ時間をかけずに契約して、短期間で建築する。ある会社では、営業の段階で3回アプローチをかけても契約できなければ、追いかけるのをやめるそうです。
また建築の勉強をしてない営業マンが図面を提案し、工期短縮のために協力業者に施工部隊をつくらせ管理もさせて、一気に仕上げようとするところもあります。社員には技術向上のスキルを求めず、なんでもお任せ状態。安さをのみを追求するならそれでも良いのですが、時間をかけてジックリ家造りを楽しみたい人には不向きだと思います。
弊社はハウスメーカーにはなれませんが、ローコスト住宅を目指すこともありません。適正な価格で、モノづくりにこだわる町工場のように手造り感覚を大切にしたいと考えています。
↑Where is this?
2015-09-05のphoto
:ニューヨーク・ロックフェラーセンター展望台からのエンパイヤー・ステート・ビルディング