ひとりの建築家の人生から夢を感じた
図書館で新刊コーナーを覗いていると、黄色い背景に黒いスーツを着た若い男性の背表紙を見つけました。よく見ると若き日の建築家・黒川紀章。題名は「メディア・モンスター 誰が黒川紀章を殺したのか?」。少し過激なタイトルだなと思いながら、本のページをめくっているうちに、その世界に入り込んでしまいました。
黒川紀章は、1960年代に建築運動メタボリズム(新陳代謝)の旗手として華やかにデビューした建築家。大学院生の時から設計事務所を立ち上げ、新聞・雑誌・テレビなどに、建築や都市論を語り、政財界や文化人などの著名人と交友関係が多く、マスコミに最も露出している建築家でした。
そんな彼が、2007年4月に突然、東京都知事選に出馬表明します。何故? ずっと疑問に感じていたのですが、読み進めるうちにひとつの答えを見つけました。この本は黒川紀章の人生を語るノンフィクションですが、戦後の建築や都市のあり方の変化を知ることができ、また現代が抱える多くの問題は過去の歴史を引きずっていることを痛感させられます。
私にとっての黒川紀章は、好きな建築家というよりは気になる建築家でした。彼の代表作・中銀カプセルタワービルは、中学生の時に、竣工記事を新聞で読みました。首都高を車で走るようになってからは、そのフォルムから未来都市を感じ、いつかは近くで見たいと思っていました。
ここ数年でその機会に恵まれました。埼玉県立近代美術館には、カプセルの一室が寄贈されているというので、そちらにも行ってきました。外から覗くだけでしたが、リニュアルされて当時の雰囲気を再現しています。
建物は老朽化し超高層ビルが林立する中に立つと、その姿は満身創痍で痛々しい。古くなった部屋(カプセル)を個々に交換して、新陳代謝させることを想定していましたが、雨漏り、アスベストなどの問題をかかえ、一時建替えの危機にもさらされました。
でも、数年前から保存再生の声が上がり、最近、「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」がはじまりました。運動の一環としてクラウドファンディングによる書籍がこの秋に出版される予定です。
当時は最先端たった建物も今では近隣のビルと較べると、どこかアナログ的で親近感を覚えます。「ガンバレ」って応援したくなります。
↑メディア・モンスター 曲沼美恵 著 草思社
↑中銀カプセルタワービル
↑カプセルは美術館前の埼玉県立北浦和公園で公開